推理小説家の岡崎琢磨さんの著書“春待ち雑貨店ぷらんたん”を読みました。
今日はその話なので、大まかなストーリーを話すわけでもオチのネタバレをする訳でもありませんが、少しネタバレがあります。
大学生の頃に「このミステリーがすごい!」大賞、略して「このミス」というミステリー小説の賞の存在を知りました。
本屋に行くと、「このミス」の大賞が発表されたときには「このミス」のブースがありました。その特集ブースを見ていたときに目に留まったのが岡崎琢磨さんの“珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れたコーヒーを”でした。
表表紙のイラストが好きだったとか、裏表紙に書かれているあらすじを読んで気になったというよりも、受賞はされなかったが、隠し玉として出版されたというところに興味を持ちました。
当時は東野圭吾や伊坂幸太郎、誉田哲也に綾辻行人さんの本を読んでいて、ふと「ちょっと違う雰囲気の本が読みたい。」と思っていました。
そんな中、「大賞に選ばれたものは面白いんやろう。じゃあ大賞にギリギリ選ばれなかった小説はどんな内容なんやろう。」と気になったのです。
読んでみると、まあ有名な小説家でもない僕がこんな評価をするのもアレですが、「なるほど。」とギリギリ受賞されなかったのが理解出来るような内容でした。
最近は漫才でも伏線回収の上手さがどうのこうのと言われていますが、僕がこの時「なるほど。」と思ったのは伏線回収のことではありません。
「もうちょっと、言葉が欲しい。もう少し表現して欲しい。」と感じました。
本は映像がありません。音声もありません。
文字だけの表現なので、文字だけで情景や登場人物のイメージ、そのシーンの雰囲気を読み手に想像してもらわなくてはいけません。読み手次第でそのイメージは変わるので、ドラマ化したときに「その人がその役するの?」と不満に思うわけですが、文字を読むと次々映像が浮かんでくるのが、小説の面白い部分だと思います。
そういった意味で、タレーランは「もうちょっと表現して欲しい。なんとなく分かるけど、もう一言くれたら鮮明に映像化出来るのに、なんか映像がぼやける。」と思いました。
今まで有名な作家の本ばかり読んでいた僕には新鮮な感覚だったのと、タレーランの舞台は京都で、当時京都の大学へ通っていたこともあり、タレーランはお気に入りの一冊となりました。
当時岡崎琢磨さんは26歳で、年齢が近いこともあって、応援の気持ちもあったと思います。
翌年には2作目のタレーランが翌々年には3作目のタレーランが出版され、タレーランの新作が出るたびに本屋に買いに行きました。
8作目の最新作は2022年に出版され、1作目からずっとタレーランの“追っかけ”をしている僕は、表現の変化を楽しみに読んでいます。
これは決して上から目線で言っているのではなく、どういう風に書き方が変わっていくのかを追いかけることで、どういう風に付け足したら読み手がイメージしやすくなるのかが分かります。
コミュニケーションの勉強にもなります。
読んでいる時はそこまで分析している余裕もなく、脳内は楽しさに満たされてしまうのですが、読んでいるだけでも感覚的に勉強になっているはずです。
僕は新作が出るたびに1作目から読み直しています。
1作目と8作目の文章は全然違い、そこがタレーランの面白い部分であるので、1作目はそのままに改訂はしないで欲しいなと勝手に思っています。
そんな岡崎琢磨さんの著書はタレーランシリーズ以外に読んだことがありませんでした。
タレーランがあまりにもお気に入りで、12年も他の作品を読めずにいました。
先日、やっと他の作品を読みまして、それが2018年に出版された“春待ち雑貨店ぷらんたん”という本です。
タレーランの時から感じていましたが、岡崎琢磨さんは“気遣い”がテーマになっているのではないかと感じます。
タレーランでも発言するかしないか、行動するかしないかについて悩み、自分の言動が相手にどう影響するかをよく考えている描写が多いです。
“春待ち雑貨店ぷらんたん”でも同じように登場人物は自分の発言に慎重です。
例えば、今お付き合いしている男性に高級なフレンチレストランのお店へ連れて行かれたら、女性は「プロポーズかも?」と思うでしょう。
女性がその気であればいいのですが、そうじゃなかった場合、そういう場所でプロポーズされたら断りづらいです。
指輪まで見せられたら、困ると思います。
例えば、付き合う前のデートで、最後に夜景のキレイな場所へ車で連れて行ってもらい、そこで告白されたら、断りづらいと思います。
本に出てくる登場人物はこういうときに“保留”をします。
断りたいわけでもなく、イエスを言いたいところなのですが、イエスと言えない時に、流れに流されずに“保留”を選択します。
読んでいて「ほ〜。凄いな。」と感心してしまいます。
僕はそういう断りづらいという意味では追い込んだようなやり方が好きではないので、なるべくそうならないように気をつけたりします。
一昔前に定番だった、あの告白やプロポーズ方法は、お互いの気持が分かっているからするのであって、一か八かで使う方法ではないはずです。
なのに「あのシチュエーションにすれば上手くいく。」「あのシチュエーションされたら断られへん。」と定番の手法によって恋愛が戦略戦になってしまいました。
恋愛は戦略でどうこうするものではないはずです。
“春待ち雑貨店ぷらんたん”では断りづらいあの状況で“保留”をします。
それも自分の気持ちだけではなく、相手の気持ちも考えて“保留”を選びます。
“律儀な保留”です。
その“保留”がその後どう展開していくかは読んでいただければと思いますが、岡崎琢磨さんの本はタレーラン以外でも“気遣い”があり、“春待ち雑貨店ぷらんたん”ではタレーランとは違う“気遣い”があります。
「なるほどなあ。」と勉強になります。
面白そうだと思った方は、ぜひ一度読んでみてください。
化粧品研究者こまっきー
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