前回の勉強本の続きで、今回は残りの小説8冊を紹介したいと思います。
小説なので、ネタバレはせずに感想を中心に紹介したいと思います。
1作目は森村誠一さんの“人間の証明”です。
この本は赤川次郎さんが好きだった母からもらった沢山の本の中に入っていました。
もらった本の殆どは赤川次郎さんの本でしたが、数冊だけ違う小説家の本がありました。
当時は赤川次郎さんの本が読みたかったので、他の作者の本は読みもせずに10年以上本棚に飾ってあるだけでした。
10年以上経つと、結構変化があるものです。
同じ小説家の本ばかり読んでいると飽きてくるので、「たまには全然知らない小説家の本を読みたい。」と思って他の小説家の本を読むようになりました。
そして、伊坂幸太郎さんや米澤穂信さんなど新しくお気に入りの小説家を見つけて、その人たちの本を殆ど読み終えてしまった今年、ふと目があったのが、本棚に10年以上置きっぱなしになっていた数冊のうちの1冊である森村誠一さんの“人間の証明”でした。
1976年に出版された“人間の証明”は770万部以上のベストセラーとなっており、映画化やドラマ化もされているそうです。全然知りませんでした。
刑事ものの東京都内が舞台の小説なのですが、殺されたのはアメリカの黒人で、日本からアメリカに来たばかりでした。
刑事はアメリカとやり取りをするのですが、そのやり取りの仕方が今ではびっくりするくらいアナログで、返事待ちの時間が長い部分は時代を感じます。
また、読んでいると70年代であろう街並みや当時の風習などの描写は読んでいて面白いです。
そんな中でも今でも言われているような言葉が出てくると、「こういうのは結構昔から言われていて、案外ただの口癖みたいなものなのかもしれないな。」と思いました。
小説の設定も面白いですし、赤川次郎さんよりも15歳年配の方の時代は、こういう社会環境だったことが分かるのが面白いです。
最近の本にはこういう社会状態は描かれていないと思いますので、70年代の歴史本のような感覚で読んでいるような気分になります。
2作目は伊坂幸太郎さんの“シーソーモンスター”です。
この小説は螺旋プロジェクトという企画で伊坂幸太郎さんが書いた小説です。
螺旋プロジェクトは、共通のルールを決めて、原始から未来までの歴史物語を一斉に書くという企画です。伊坂幸太郎さんの他に、朝井リョウさん、天野純希さん、乾ルカさん、大森兄弟さん、澤田瞳子さん、薬師丸岳さんに吉田篤弘さんの8人の小説家によるプロジェクトです。
伊坂幸太郎さん以外はまだ読んだことがない小説家の方ばかりです。
この本には2つの物語が描かれており、“シーソーモンスター”は昭和後期、“スピンモンスター”は2030年から2071年までの近未来をイメージして書かれた小説です。
昭和後期を描いた“シーソーモンスター”は小姑問題があったりと、平成4年生まれの僕には馴染みのある情景の中で伊坂幸太郎ワールドがプラスされています。
近未来を描いた“スピンモンスター”は街中に監視カメラがあり、電車に乗る時に使うICカードも監視されているという監視社会の中で、人工知能ウェレカセリアをバレずに破壊するという物語です。
AIといえば、去年は国会の質問をChatGPTに作らせたことが話題になったり、2024年の今はAIの電力確保が世界で話題になっています。
“シーソーモンスター”は2019年に発売されており、そのころはまだそこまでAIは注目されていませんでしたが、伊坂幸太郎さんは“クジラアタマの王様”といい“シーソーモンスター”といい、なにか千里眼をもっているように感じます。
3作目は朝井リョウさんの“死にがいを求めて生きているの”です。
先ほどの螺旋プロジェクトで伊坂幸太郎さんの本が面白かったので、他の作者も読んでみようと手に取った本です。朝井リョウさんを選んだのは、平成が舞台になっていたからです。
朝井リョウさんは他もこのような作風なのでしょうか。
平成4年生まれで、子供ながらに感じていた感情が細かく描写されていて驚きました。
「あの頃の僕の気持ち、こんなに分かっている大人がいるなんて!」と思って朝井リョウさんについて調べると、1989年生まれで僕と3歳違いでした。そりゃ、僕世代の気持ちをよく知っているわけです。
平成といえば経済の部分ばかり注目されていますが、幼少期に平成時代を過ごしてきた僕としては、“死にがいを求めて生きているの”に書かれている部分も注目してほしいなと思います。
平成の頃に小学生、中学生、高校生だった人には懐かしい感覚が蘇りますし、平成には社会人だった人やまだ幼かった人は、これを読んで平成時代の子供の心境を知ってもらうと面白いと思います。
4作目は岡崎琢磨さんの“春待ち雑貨店ぷらんたん”です。
岡崎琢磨さんといえば、タレーランの事件簿が有名で、タレーランの事件簿シリーズは現在8作ありますが、すべて持っています。それくらい好きなのですが、他の作品には手を出せずにいました。
すごくハマった漫画があっても、それを書いた漫画家の他の漫画を読むことに抵抗を感じるあの感覚です。
2012年から知っていた岡崎琢磨さんですが、今年初めてタレーランの事件簿シリーズ以外の小説を買いました。
“春待ち雑貨店ぷらんたん”は雑貨店を営む主人公の身に起こる日常的な事件の話です。
岡崎琢磨さんは結構日常のトラブルを事件にするのが好きで、“春待ち雑貨店ぷらんたん”でも同じように日常がテーマになっています。
僕は主人公の律儀な保留が面白いなと思いました。
主人公は断りずらい場面で保留を選択します。
イエスでもノーでもなく保留をするのは、まさに「日本人ははっきりものを言わない!」の代表的な行動ですが、小説の中ではそれが絶妙な選択であることが分かります。
絶妙が故に、僕は律儀な保留だと思いました。
アメリカナイズされている昨今ですが、はっきり言わないことにも良さはあり、曖昧な部分を大事にしないといけないと気づかせてくれる1冊です。
5作目は綾辻行人さんの“緋色の囁き”です。
綾辻行人さんといえば、館シリーズやAnothreシリーズが有名です。
それ以外の作品をまだ読んでいなかったので、他も買ってみようと手に取ったのが、囁きシリーズ1作目の“緋色の囁き”です。
綾辻行人ワールド全開で、ミステリーで学園ものなところはAnotherシリーズと近いものを感じますが、なんでしょう、こっちはずっとお化け屋敷のBGMが流れている感じです。
学園ものは読みやすいので、2作目の“暗闇の囁き”も買って読みました。
Anotherシリーズが好きな人には間違いなくハマると思いますし、学園お化け屋敷と聞いて興味が沸くのであれば、一度読んでみてはいかがでしょうか。
“緋色の囁き、“暗闇の囁き”、“黄昏の囁き”の3作あります。
僕は来年1月には3作目の“黄昏の囁き”を買おうと思っています。
6作目は佐藤賢一さんの“開国の使者ペリー”です。
佐藤賢一さんがペリーに関する文献を読んで、物語にされた小説で、僕は「なぜアメリカのペリーが来て開国をしたのに、明治維新はイギリスだったのか。」という疑問を解決できると思ってこの本を買ったのですが、この本に描かれていたのは本当にペリー来航の前後だけでした。
期待していた内容は書いてありませんでしたが、読んでみると、「まあ、アメリカ人の外交って江戸時代から変わっていないのね。」と思うくらい、押して押して押し切る様子が描かれています。
これを読んで、来年大統領になるトランプの動向を見ていると、「ペリーじゃないか!」と思うかもしれません。
7作目は永田和宏さんの“あの胸が岬のように遠かった”です。
これは小説ではなく、自叙伝です。
永田和宏さんは僕が大学時代に所属していた研究所の教授です。
細胞生物学者でもあり、詩人でもある永田先生の自叙伝で、今年の春に喜寿のお祝い会が開かれたときに、この本を頂きました。
この本はNHKでドラマ化もされているようです。
“あの胸が岬のように遠かった”は永田先生の幼少期から大学生あたりまでの話で、授業をサボったとか、恋の病にかかったとか、結構平凡な悩みのことが書かれていました。
ノーベル賞を取られた大隈先生と飲み友達なくらいに細胞生物学では有名で、詩人界では天皇家へ指導しにいくほどに有名な永田先生の、見てはいけない部分を見てしまったような気分になりました。
読んでみると、文章の書き方が小説家とは違うことに気づきました。
詩人の人はこういう書き方をされるのでしょうか。
学生の頃の永田先生の気持ちが読んでいる僕にもはっきりと伝わってくるあたりがすごく面白く、次々読んでしまいました。
本の中では当時の気持ちをうたった短歌も紹介されており、短歌がこんなに感情的なものであることを初めて知りました。
小説ではないが、物語はあります。
ですので、感情を描写した小説が好きな方であれば、楽しんで読めるのではないかと思います。
最後8作目は赤川次郎さんの“三毛猫ホームズシリーズ”です。
これはもうシリーズでまとめてしまいます。
今年、中途半端に集めていた三毛猫シリーズを集めてしまおうと、15冊くらい買いました。
まだ最新作には程遠く、集め終わるのは来年か再来年になりそうです。
赤川次郎さんの本なら三毛猫ホームズシリーズじゃなくて、なんでもいいと思いますが、難しい勉強の本を読んだ後に赤川次郎さんの本を読むと、めちゃくちゃいいクールダウンになります。
凝り固まった頭をほぐし、疲れた脳を癒してくれる、まさに本のクールダウンであり、ストレッチの役割をしてくれます。
気軽に読めるのに、節々には訴えるような部分もあるところが、また面白いのです。
よくこんなにも作風を変えずに、重たく訴えることはせずに沢山の小説を書けるなと思います。
まるで訴えたいことを爽やかに歌っているスピッツみたいです。
ぜひ一度、難しい本を読んだ後に赤川次郎さんの本を読んでいただければ、頭がほぐれて、リラックスできてきることに気づいて、このルーティンが癖になるでしょう。
赤川次郎さんのシリーズものは多すぎて抵抗がある方は、“午前0時の忘れもの”や“記念日の客”はいかがでしょうか。
以上、今年読んで面白かった本15選のうちの小説8冊でした。
途中でおすすめが増えて、15冊超えていることは触れないでおきます。
出来るだけ自分の感想を紹介するようにしてみたので、ネタバレにはなっていないはずです。
まだ読んだことがない本がある方は、感想を参考にしてみてください。
今週のお題「読んでよかった・書いてよかった2024」
化粧品研究者こまっきー
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