化粧品研究者こまっきーの語り部屋

化粧品研究者こまっきーが普段考えていることを書き留める、日記のようなもの。

差別化や付加価値思考で見失う本質。

僕は差別化や付加価値という言葉が好きではありません。
差別化とは、同じような商品でも他社製品とは違う部分、優れている部分を作ることです。便利さや機能、価格など「この商品はココが凄い!」と言われている部分がメーカーが差別化した部分です。
付加価値とは、他社にはない価値を付け加えるという意味です。一応違いはありますが、結局は他社と比較してオリジナリティを出そうとしているので、差別化も付加価値も同じ意味で使われています。
どちらも他社と比較しているところが、商品開発やイノベーションという意味で違うんじゃないかと思います。

例えば飛行機は鳥を見て「人もあんな風に空を飛べたらいいな。」と思うことからスタートしているはずです。飛行機といえばライト兄弟ですが、どうやらライト兄弟が飛行に成功した12年も前に日本の航空機研究者の二宮忠八という人が成功しているそうです。
二宮忠八さんは羽を動かさずに空を飛んでいるカラスを見て閃いたそうです。

鉄道が出来たのも人や物資の移動手段をもっと良くしようと考えたからこそ、発展していったのでしょう。
これは他社と比較して生まれたのではありません。
「もっと良くしたい。」「こんなものがあったら良いな。」と思うことから始まっています。
商品開発やイノベーションというのは、自分が思う良くしたいことや、あったら良いなと思うものを作ることではないかと考えています。

石破首相は「一人一人の生産性を上げ、付加価値を上げ、所得を上げ、物価上昇を上回る賃金の増加を実現していく。」と話していました。
「コストカット型経済から高付加価値創出経済への転換」とも言っており、国会などでの討論でも、たびたび“付加価値”という言葉が出てきています。
下請け会社で様々なメーカーの商品開発に携わり、メーカーの商品開発や業界の空気感を見ていると、“差別化と付加価値”が本質から目を逸らしているのではないかと感じます。

ヒアルロン酸やコラーゲンが流行れば、ヒアルロン酸やコラーゲンを配合した商品が増えます。一定数増えると、今度は“差別化”と言って、価格を下げたり、他とは違うヒアルロン酸を入れて“付加価値”をつけようとします。
下請け業界の界隈からすれば、メーカーが求めているものが流行りなので、セミナーや業界の技術展に行けば、営業の人は「今はこれが流行っていて・・・」と流行りのエキスや流行りに合わせた原料の紹介をします。本当は流行りもの以外で推しの原料があるはずなのに、流行に合わせて展示する原料を選びます。一応、推しを原料も置いてあるのですが、あまり注目されないので「やっぱり今は注目されないか・・・」なんて感じます。
注目してもらえるように営業するのが、営業の役割でありイベントに出展している意味であるはずなのに、イベントに出て、お客さんの反応を伺うようになっています。

原料メーカーから流行りの原料を紹介され、メーカーから流行りのものが作りたいと言われると、下請けは流行りに合わせて研究するようになります。
ラウレス硫酸ナトリウムとアミノ酸系の活性剤のどちらが本当に良いのかという判断はせず、求められるものをただ作ろうとします。

今ではECが普及していますが、やっぱりECよりも実店舗の方が売上は高いです。
例えばロフトは全国で138店舗あります。ここに10個ずつ仕入れてもらうと、1380個売れるわけです。
バラエティショップでロフト以外にも有名なプラザは118店舗ありますから、ここにも10個ずつ仕入れてもらうと、1180個売れて、1店舗に10個ずつ売れるだけで合計で2560個売れることになります。
大手のバラエティショップは全国にありますので、全国に置いてもらえるかどうかは各メーカーによって異なりますが、EC一本と実店舗では売れる数が極端に違います。
特に最初はバラエティショップに初回導入数量を交渉して発注数量を決めます。
工場に発注をして、メーカーに商品が納入されると、そのままバラエティショップに納入されるので、在庫の心配がなく、まずは売上が立ちます。
するとメーカーはバラエティショップの意向を汲み取ろうとします。

ショップからすれば、売れる商品を仕入れたいと思うものです。
売れるものとは、今流行っているものです。
コラーゲン配合のスキンケアが流行っていれば、コラーゲン配合の商品をたくさん仕入れて、ブースを作ったりするでしょう。

ショップに卸すことができれば、数が売れて、在庫を持たなくてよく、すぐ売上が立つので、商品開発をしながらショップと交渉をするようになります。
すると、ショップが売りたい商品を作ろうと考えます。
「そのショップで1000円で売られているなら、800円で売れるように作ろうか。」とか、「他の流行りのエキスも配合して、付加価値をつけて1500円で作ろうか。」など、他社と比較し、ショップが仕入れたくなるような商品開発になってしまいます。

もちろん、そうじゃないメーカーもあります。僕自身がそうですから、「自分が良いと思えるものを作る。」という商品開発をしているメーカーもあるでしょう。しかし、下請けをしていると少ないなと感じます。
おそらく最初は、差別化や付加価値なんて気にもしていなかったと思います。
作りたい商品のイメージがあったはずです。
それが色んな人と交流を深め、見たり聞いたりしているうちに、差別化と付加価値を意識して商品開発をしないといけないという思考になってしまっているような気がします。
実際に、下請けをしていると依頼内容が差別化を意識したものに変わって行ったこともありました。
それくらい、差別化と付加価値思考は社会に充満しているように感じます。

こうして、差別化と付加価値を意識しながら商品開発をしていき、流行が広がらなくなると、流行と差別化と付加価値から流行を抜いて、「キャッチフレーズやコンセプトでどう売るか?」となります。
これがずっと続いているから、「もっと安く。」「他とは違う何かを付けて。」「もっと違う言い方で。」という思考になってしまっているのではないかと感じています。
つまり石破首相が言うコストカット型経済と高付加価値経済は同じだと思うのです。

「もっと安く。」「他とは違う何かを付けて。」「もっと違う言い方で。」の思考の中には、飛行機が発明された時のように「僕はこういうものがあったら良いなと思う。」や「こういうものを作ってみたい。」という思考がありません。差別化と付加価値は、常に他社との比較なので、他社と違うところ探しをしているのであって、それではイノベーションは生まれないです。イノベーションが生まれないので、質の向上がありません。
なので、行き着く先がコストカット型経済になるのでしょう。

僕には差別化や付加価値が、今のコストカット型経済を作ったように見えています。
石破首相の言葉の中から付加価値を取り、「一人一人の生産性を上げ、所得を上げ、物価上昇を上回る賃金の増加を実現していく。」ためには、まずは差別化と付加価値を意識することから脱却しないといけないのではないでしょうか。
そして質を向上しなければ、生産性も所得も上がらない状態まで来ているのではないかと思います。

お金はかかるし、時間もかかるし、側から見れば何をしているのかよく分からず、一体それが売上になるかわからないところに、イノベーションはあります。
質の向上を図るには、二宮忠八さんがカラスを見て閃いたように、こういう人に差別化や付加価値思考を押し付けないことではないかと思います。

かといって、質を向上したから、高価格になっていいというわけではないと思います。
先日、SNSで農家が、無農薬で除草剤や肥料を使わずに栽培したお米を10kg13000円で販売するという記事を見ました。
誰だって、食べるなら無農薬で除草剤や肥料を使わずに栽培したお米の方がいいでしょう。
しかし10kg13000円のお米を誰が買えるのでしょうか。
僕は今、10kg5000円でお米を買っています。5000円でもここ2年で1000円以上値上がりしていますので、買うお米の見直しや食費の見直しを何回もしています。
もし僕が10kg13000円のお米を買えば、差額の8000円分を野菜や肉で節約しないといけなくなるでしょうから、健康的なお米でも栄養のバランスが悪くなり、不健康になるでしょう。
質の良いものは、買える人だけが買うというのは当然と言えば当然ですが、一般家庭向けの食材にこのようなお金儲けが絡んでくると、貧富の差は広がっていくでしょう。
お金がある人だけが健康的な食事を食べられるというようになってしまいます。

そして無農薬で除草剤や肥料を使わずに栽培したお米が高く売れるなら、そのコンセプトでお米を栽培しようとする人が増えるかもしれません。
すると、その思考が長く続けば、他の商品開発と同じように農業もコンセプト重視になってしまいます。
実際にそういう傾向が始まっていいて、いちごのシーズンに毎年僕はどこか農家を選んで、その農家からイチゴを買うのですが、無農薬だからと言って美味しいわけではありませんでした。
しかし、無農薬のイチゴは無農薬というだけで、結構値段は高くなります。

コストカット型経済から脱却するためにも、質を上げようとした時にお金儲けに走らないためにも、差別化と付加価値思考から脱却し、商品開発や農業などの本質に立ち戻らないといけないでしょう。

化粧品研究者こまっきー

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